「ART&pearls」

画家のブロンズィーノの技

 

前回までのお話

スペインの貴族の娘のエレオノーラは、フィレンツェのメディチ家に嫁ぐことになりました。

https://veronic-pearls.com/jewelry-history/3902/

 

アーニョロ・ブロンズィーノ

夫のコジモ1世は、彼女を大いに気に入っていたようで、そのため、その美しい容姿を画布に永遠に留め、新妻の高貴な血筋を宣伝するために、当代最も腕の立つ画家に肖像画を描かせました。

これは画家ブロンズィーノが数点制作したエレオノーラの肖像画の中で初期の作品です。

 

【エレオノーラ・ディ・トレドと次男ジョバンニの肖像画】

 

ラピスラズリから精製されるウルトラマリンの背景から浮かび上がる、エレオノーラの威厳と優雅さ、一点を見つめる瞳と感情がない硬質な表情と真珠の美しさ。

当時肖像画はある意味を込めて描かれていました。

ブロンズィーノはコジモ1世の宮廷画家として多くの肖像画を残しました。知的で洗練された画風が特徴です。
クールで静かな描き方、マニエリストの代表選手です。

【マニエリスム=
マニエリストたちはルネサンス巨匠の模倣をしていただけではなく、完成されたルネサンス様式に画家独自の美学を加えることによって、自然を凌駕する美しさを持った新しい絵画を目指していたイタリアの様式美の考え】

衣装とジュエリーの魅力

 

絹織物を広める宣伝広告

コジモ一世はトスカーナ大公となり、大公夫人は、そのもっとも美しい衣裳をまとって描かれています。

当時のフィレンツェは、絹織物を衰退傾向のある羊毛産業から絹織物産業へ変わる唯一の産業としての戦略を練っていました。

そのような時代、肖像画は君主が権力を示すのに用いた文化政策の一つとしての役割を負っていたのでした。(ア)

 

重厚な衣装は彼女が婚礼の日に着たもの。
金糸、銀糸を用いた極めて贅沢な衣装は壮麗に着飾る事で自らの権力と国力を誇示する特別な時のもので、多産を表し、エレオノーラがもたらした財産の豊かさはザクロのモチーフを象徴としています。

ブロンズィーノのベルベットの絹織物の光沢の表現と織り目が見えるほどの緻密さ。
その精巧さに見るものの目は釘付けになり、その絹織物の重厚さを伝えるのに充分な表現です。

ブロンズイーノの描くエレオノーラの肖像画は、フィレンツェを抱くトスカーナ公国の大公夫人として素晴らしい役目を果たしたと言えるでしょう。

彼女の墓廟からこの衣装の断片が発見されています。

 

もう一枚の画布

この深紅色のドレスの絵もブロンズイーノの作です。

肩から胸元に見える真珠の付けられた金糸入り、ダマスク織りのこの衣装はザクロの衣装の下に着用されていたと思われます。

そして、小指のカメオの指輪には一羽の鳥と二つの豊穣の角、握手する二本の手が刻まれています。
(イ)

エレオノーラに託された象徴のような指輪。

 

ザクロの衣装とパール

ウエストの宝石のあしらわれた鎖のベルトはやはりマニエリストの彫金師、ベンヴュタード・チェリーニ作の可能性も。

そしてそのベルトの先は真珠のタッセルの装飾があります。
一本には25、6個の小粒の丸い真珠を通してあり、それが40本ぐらいの束になっているようです。
少なくとも1000個ぐらいの真珠が使われています。
一粒ずつとてもきれいです。

胸を飾る長めの真珠のネックレスは、10ミリほどの大きさに感じます。
天然真珠としてはとても大きめ。もしかしたら白蝶貝の南洋真珠でしょうか。
古代から天然真珠は採れ高が少ないのに需要が多く、とても貴重なものでした。

白くぼんやり虹色のように輝く真珠は清楚で柔らかでその光は肌をも美しく魅せます。
ルネサンス以降、真珠はヨーロッパの女性を虜にしてきました。

メインの衣装を目立たせるためにも真珠はあくまでも脇を飾る存在ですが、それがかえって品格を感じさせます。
脇といってもタッセルの真珠の数やネックレスの珠自体の大きさを思えばとても豪華です。
こんなにたくさんの真珠はイタリアでもスペインでも採れるわけではありません。

品を尊ぶ着飾った肖像画の女性の大事なアイテムの真珠ですが、エレオノーラも着用している真珠はどこで採れたものでしょうか。

 

真珠略奪の時代に続きます。③へ

https://veronic-pearls.com/jewelry-history/3934/

 

これまでのお話①

https://veronic-pearls.com/jewelry-history/3902/

参考文献
(ア)、(イ)ーイタリア美術叢書Ⅲ 憧憬のアルストピア 第三章 
   肖像画のホリティクス- ブロンズイーノ
   <エレオノーラ・ディ・トレドと次男ジョバンニの肖像> 太田智子著 p121

 

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